研究概要 |
貴金属表面上に微量蒸着された遷移金属原子の電子状態を観察するため、Cu(111)表面上にFeおよびNiを蒸着し、紫外線およびX線光電子分光測定を行った。X線光電子分光により元素固有の内殻シグナルを観測することができるので、作成した試料についてその場で蒸着量を同定することができる。蒸着量が少ない場合、光電子スペクトルはCu(111)上の孤立したFe, Ni原子の電子状態を主にとらえられると考えられる。Fe/Cu(111)では、微量蒸着系においてフェルミ準位近傍に狭いピークが現れた。これは、孤立原子的な電子状態を保ったFeの3d電子がCu(111)基板の伝導電子と弱く相互作用した結果を反映していると解釈できる。この結果は、近年注目を集めている走査型トンネル分光の実験結果(ホストの伝導電子状態に鋭い凹みがあわられる)と相補的なものである。一方、Ni/Cu(111)は、蒸着を低温で行った場合はNiは孤立した状態が支配的であるが、室温で蒸着すると表面第一層が合金化することが知られている。フェルミ準位近傍の光電子スペクトルを測定すると、CuNi表面二次元合金に比べ、孤立Niでは3dピーク位置が大きくフェルミ準位側にシフトしていることがわかった。これは、不純物-ホスト間の相互作用が、不純物が基板表面第一層に埋めこまれるかどうかで大きく変化することに由来すると考えられ、一不純物の電子状態の次元依存性を明瞭に示した例と言える。
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