研究概要 |
高温超伝導と磁気秩序との競合的共存状態を解明する上で実験的に非常に重要なカギとなるのは、超伝導体におけるCu02面の不純物置換であると我々は考えている。何故なら、不純物濃度を精密且つ連続的に制御することによって、非常にクリーンな超伝導状態(スピンギャップが存在する状態)から、超伝導と静的な磁気相関との共存状態を経て、超伝導が完全に抑制された状態を作り出すことができるからである。従って、本研究では、不純物置換によって起こる超伝導の抑制と、それに伴う反強磁性磁気相関の空間的・時間的構造の変化を定量的且つ詳細に調べ、それらの関係を明らかにすることを最大の目的と位置付けている。 我々は,Zn置換超伝導体La1.85Sr0.15CuyZnl-y04(y=0.004, 0.008, 0.017)の中性子(非)弾性散乱実験を行った。それぞれの結果を定量的に比較するため,単結晶試料のサイズ・形状から成長方向までを統一し,新たに大型で純良な単結晶を作成した。その結果,最もZn置換効果が顕著に現れたのは,低エネルギー(ω=3meV)スピン感受率の温度変化であった。Y=0.004試料は,Zn-freeのLa.85Sr0.15Cu04と同様に,所謂スピンギャップ状態が明瞭に観測された。一方y=0.008試料では,超伝導転移温度Tc以下で強度が減少してギャップが開く振る舞いを一度見せるものの,更に低温で再び増加する現象が見られた。この結果は,Zn置換によってギャップ内に新たな状態が出現し,その状態がスピンギャップ状態と空間的に相分離している事を強く示唆している。 この結果は,高温超伝導が空間的に不均質に起こりうる事を示している。つまり,不純物の周りは超伝導が抑制されていて,(準)静的な反強磁性状態が安定化しているが,その周りでは超伝導が起こっており,スピンギャップ状態が実現している,という描像である。更に最近,La1.837Sr0.163Cu04の磁場中中性子散乱実験の結果が報告されており,H=7.5Tの高磁場下での低エネルギースピン感受率の温度変化に,我々のy=0.008試料と極めて類似した振る舞いが見られている。これらの結果は,Zn不純物が,高温超伝導に対してピン止めされた磁束量子と似た作用を持つことを意味しており,高温超伝導の本質が不均質状態に隠されていることを強く示唆している。
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