本年度の研究実施計画は、1.高速フーリエアナラィザーを用いた高次高調波成分解析による高磁場・極低温での非線形電気伝導度測定法の開発と、2.これを用いた準2次元有機伝導体α-(BEDT-TTF)_2KHg(SCN)_4の低温密度波相での非線形電気伝導測定であった。 1.典型的スピン密度波物質である準1次元有機伝導体(TMTSF)2PF6の非線形電気伝導の測定を直流電流電圧特性測定と交流電流印加による高調波解析の2通りで比較しながら行った。直流測定によってスピン密度波のスライディングのよるしきい電場の決定を行った後、交流電流応答の3次高調波強度をフーリエアナライザーにより観測し、交流電流振幅依存性を測定した。直流測定で決定したしきい電場を越えた電流振幅以上から3次高調波成分の増加が観測された。このことから非線形電気伝導の出現と交流応答における3次高調波成分の関係を明らかにした。またこの手法は、外場(温度、磁場など)を連続的に変化させながら非線形電気伝導を測定できる利点を有している。これは実験時間に制約がある高磁場実験において有用である。 2.この開発した手法を利用してα-(BEDT-TTF)_2KHg(SCN)_4の非線形電気伝導を0.5K、30テスラまでの定常強磁場中で測定した。特に23テスラ以上の高磁場相とこれ以下の低磁場相での密度波状態の違いを探ることを目的とした。予備的な結果として高磁場相でのシュブニコフドハース効果における抵抗の極小点において3次高調波の増強が観測された。今後、この非線形性と量子振動の関係、密度波との関係を明らかにする。
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