本研究課題は特異な密度波状態を示す準2次元有機伝導体α-(BEDT-TTF)_2KHg(SCN)_4の高磁場極低温における非線形伝導現象の観測と、そのための高速フーリエアナライザーを用いた高次高調波成分解析による非線形効果測定手法の確立である。 本年度の成果として 1.上記有機伝導体の10K以下の低温における密度波状態での非線形伝導を観測し、そのしきい電場の温度依存性、磁場依存性を明らかにした。ゼロ磁場中でのしきい電場の温度依存性は、これまで報告のあるスピン密度波、電荷密度波の場合とは異なる特徴的な振る舞いをすることが明らかになった。この振る舞いは、最近提案されている異方的な密度波エネルギーギャップを有する「unconventional」な密度波状態におけるしきい電場の振る舞いと定量的にも一致することを明らかにした。15T以下の磁場中におけるしきい電場の振る舞いも「unconventinal」な密度波状態で説明できることを示した。この磁場中での振る舞いから、「unconventional」電荷密度波状態が低温低磁場中での密度波状態であることの可能性が高いことを示した。 15T以上の高磁場では、磁気抵抗に現れるシュブニコフドハース振動の抵抗の極小、極大と相関のある非線形効果が観測された。これは、この系が1次元、2次元バンドを共有する2バンド系であることに起因して、2次元バンドのランダウ量子化と同期した密度波を形成する1次元バンドの変調が存在することを示している。 2.高速フーリエアナライザーによる高調波解析法による非線形伝導現象の観測手法を構築し、特に実験時間が制限される高磁場での非線形伝導現象測定に有用であることを示した。
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