共鳴非弾性X線散乱を用いた遷移金属酸化物における素励起の研究

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13740200
• 研究種目: 奨励研究(A)
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 石原 純夫 東京大学, 大学院・工学系研究科, 講師 (30292262)
• キーワード: 非弾性X線散乱 / 軌道の自由度 / 遷移金属酸化物 / 巨大磁気抵抗効果 / 共鳴X線散乱 / 素励起

研究概要

平成13年度の研究課題として「マンガン酸化物の絶縁相における共鳴非弾性X線散乱の理論的研究」を実施した。ペロフスカイト型マンガン酸化物で出現する様々な興味ある物性は、電子の電荷・スピン・軌道の自由度間の結合、分離の結果生じる電荷・スピン・軌道複合物性として捉えることができる。これらの自由度の素励起を研究するにあたり、電荷励起に対してはX線散乱やEELS、スピン励起に対して中性子散乱が大きな役割を果たしている。一方で軌道自由度の素励起を観測するにあたってはこれまでその実験手段は限られており、広い波数、エネルギー空間における軌道励起の性質を明らかにすることが早急に望まれている。本研究では共鳴非弾性X線散乱を軌道励起の観測手段として捉え、その理論の構築を行いペロフスカイト型マンガン酸化物における軌道秩序状態に適用した。理論研究の中心課題は、遷移金属酸化物に特有な電子の局所相関性と素励起の遍歴性を同時に理論に取り入れることである。この目的の下に、リニュヴィル演算子法と複合演算子法(メモリー関数法)を併用して、X線の散乱断面積の定式を行った。これにより散乱断面積は、局所電子相関を表す因子と軌道励起の動的相関関数の積として表されることが示され、後者に対しては軌道自由度を取り入れたハバード模型におけるハートリー・フォック近似を用いて計算を行った。得られた共鳴非弾性X線散乱スペクトルは、(3x^2-r^2/3y^2-r^2)軌道より構成される下部ハバード・バンドから、(y^2-z^2/x^2-z^2)軌道より構成される上部ハバード・バンドへの励起として解釈が可能であり、これは個別軌道励起として捉えられる。スペクトルの波数依存性は銅酸化物に比べて著しく弱いが、これは軌道秩序のために上部ハバード・バンドの分散が弱いことに起因しており、軌道秩序状態の特徴として理解できる。最近SPring-8の実験グループによりLaMnO_3における共鳴非弾性X線散乱の実験が行われ、移行エネルギー2eV近傍にピーク構造が見出された。その波数依存性、エネルギー位置、散乱ベクトル周りの方位角依存性が本研究における理論計算によりよく説明されることが明らかとなり、これが軌道励起に起因するものと解釈された。更に、マンガン酸化物における強磁性金属相におけるX線散乱スペクトルを解析する目的で、少数クラスターにおける厳密対角化法による計算を実施中である。

研究成果

• [文献書誌] H.Kondo, S.Ishihara, S.Maekawa: "Resonant Inelastic X-ray Scattering from Charge and Orbital Excitations in Manganites"Phys. Rev. B. 64. 014414-1-014414-8 (2001)
• [文献書誌] S.Ishihara, S.Maekawa: "Resonant X-ray Scattering in Manganites-Study of Orbital Degree of Freedom"Rep. Prog. Phys.. (掲載予定). (2002)
• [文献書誌] S.Ishihara, H.Kondo, 他2名: "Theory or Orbital Dynamics and their Observation by Polarized Light/X-ray Scatterings"Jour. Phys. Soc. Jpn.. (掲載予定). (2002)
• [文献書誌] S.Okamoto, S.Ishihara, S.Maekawa: "Orbital ordering in LaMnO3 : Electron-electron and electron-lattice interactions"Phys. Rev. B. (掲載予定). (2002)
• [文献書誌] 前川禎通, 筒井健二, 遠山貴己, 石原純夫: "遷移金属酸化物における共鳴非弾性X線散乱の理論"日本物理学会誌. 56. 35-38 (2001)
• [文献書誌] 石原純夫: "遷移金属酸化物における軌道の自由度と共鳴X線散乱"固体物理. 37. 1-10 (2002)