申請課題「層状有機物質における圧力、次元性、バンド充填率の制御による超伝導の研究」の研究遂行において、本年度は、超伝導発現機構の解明と新奇有機超伝導体の探索を念頭において研究を行った。本研究の準備段階としての有機伝導体の合成は、合成設備の拡充を早期に行い、数種類の有機伝導体の合成を行った。合成した試料は、輸送現象、磁化率、圧力効果などの研究を行い、超伝導発現機構に関する多くの知見を得た。また、超伝導に対する乱れの効果の研究を行い、乱れに対する有機超伝導体の異常な応答を観測し、現在、この現象をさらに解析中である。またこれらの研究と平行して、外部施設の共同利用等を利用し、実験データの収集を行った。その中で大きな成果があったので一例として紹介する。有機物質への0-10GPaといった超高圧印加技術を習得し、反強磁性を示す層状有機物質、β'-(BEDT-TTF)_2ICl_2に適用した結果、超伝導転移温度14.2Kの超伝導を観測した。この転移温度は有機物質の世界記録を約10年ぶりに更新したものである。この超伝導の試料依存性、電流依存性、磁場依存性を明らかにするとともに、圧力-温度相図も構築し、これらの結果をまとめ現在投稿中である。さらに、この圧力領域の実験を進展させ、もう1種類の有機物質においても約7Kの超伝導を観測した。今後の超高圧実験に備えるために、現在、数種類の有機物質を合成しており、自ら持つ世界記録の更新に向けて、研究を計画している。
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