研究概要 |
擬一次元有機超伝導体(TMTSF)_2X(X=PF_6, ClO_4等)ではスピン・トリプレット・ペアリングが実現している可能性が実験的に指摘されている。この物質では超伝導はスピン密度波相に隣接しているのでスピン・シングレットのd波超伝導になるのが自然であると考えられるが、我々は、フェルミ面の擬一次元性、スピンと電荷ゆらぎの共存、スピン揺らぎの異方性の3要素によってスピン・トリプレットf波超伝導が実現している可能性を提唱している。 そこで、他の理論において提唱されているスピン・トリプレットp波対称性も含め、p, d, f波という3つのペアリング対称性が実現し得る有効ハミルトニアンを考えた。そして、このハミルトニアンに対して平均場近似を施して、表面を切り出した場合の表面状態密度を計算し、トンネル分光実験によって、これらの対称性が区別できる可能性について検討した。その結果、状態密度に現われるギャップの形状と、ゼロ・バイアス時にみられる異常(ゼロ・バイアス・ピーク)の出現の有無を組み合わせることにより、これら3種類のペアリング可能性を区別できる可能性を指摘した。 また、同じくペアリング対称性に興味が持たれている有機超伝導体、(BEDT-TTF)_2X(X=Cu(NCS)_2等)についてもペアリング対称性の検討を行った。現実の格子構造を考慮したハバード模型を用いた結果、この物質では二つの異なる対称性を持つスピン・シングレット超伝導が微妙な競合関係にあることがわかった。
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