筋肉を構成する基本的な運動タンパク質(分子モーター)を念頭に置き、二種類のタンパク質が相互作用によって自律的に運動する様子を数理モデルで表した。今年度は特に、このモデルの解析を元に、タンパク質が生体内のような大きく揺らぐ環境の下でも頑強に機能を実現する仕組みを、ダイナミクスの立場から堤案することを目指した。実際、タンパク質はいつでも画一的な機能発現をするのではなく、状況に応じて機能発現の度合いを調節しているように見受けられる。このような柔軟な機能発現がタンパク質分子自身によって自己制御される様子は、身近なマクロ機械の動作原理とは大きく異なっているだろう。本研究で用いたモデルは、入力されるエネルギー量や環境の温度変化、与えられる負荷量に対し、柔軟に対応することが可能である。このモデルの解析から得られた柔軟な機能発現を実現する機構は以下のようであった。発現過程を開始するために分子の一部に外部からエネルギーを与えると、エネルギーが他の部分に移っていく過程において、段階に応じて相互作用の変化が促されていることがわかる。これは、システムのダイナミクスによる自律的制御の結果可能になっており、この自律的制御により、エネルギーの無駄な散逸が抑制され、入力エネルギーが確実で効率的に機能に変換されている。特にダイナミクスの中のカオス性の制御は、有効な仕事(機能)の取り出しと発現過程のルース性に重要な位置を占めることが示唆されている。この研究結果は現在投稿準備中である。
|