研究概要 |
体積分率が約20%の陰イオン性界面活性剤AOT(dioctyl sulfosuccinate sodium salt)を体積分率約40%の水と油と共に混合した液体はマイクロエマルションと呼ばれ,室温常圧で均一な液体となる.その時の構造は濃厚な油中水滴構造であることが知られている.これまでの研究から油としてデカンを用いた場合,温度上昇,圧力上昇に伴い,水滴構造からラメラ構造への相転移が観測されることがわかっていた.この相転移のメカニズムは温度上昇と圧力上昇の場合は異なっている.圧力上昇による相転移のメカニズムを解明するためには,AOTの疎水鎖と油分子の相互作用について明確にする必要がある.そこで,今年度は,油としてヘキサンを用いたときの温度,圧力誘起構造相転移について中性子小角散乱により測定を行った.その結果,温度上昇,圧力上昇に伴い,デカンの場合と同様に,水滴構造からラメラ構造への相転移が観測された.ヘキサン系の場合,転移温度,転移圧力がデカンの場合より高いため,現有の圧力容器では高温,高圧相の観測は難しいことが明らかになった.得られた構造パラメーターの相転移点以下の振る舞いは,温度上昇か圧力上昇かに依らず換算温度,圧力を用いることによってスケールする事ができる.これはデカンの場合と同様である.また,このパラメーターを油の密度に対してプロットしてみると,圧力上昇による構造パラメーターの変化の仕方は,単純に密度変化の効果だけで現すことはできない.このことから,圧力誘起構造相転移のメカニズムとして,油の密度変化の他に,AOTの疎水基間の相互作用の増大が見込まれる.そのメカニズムはまだ明らかでない.この点を明らかにするため,来年度は,溶媒の粘性率の圧力依存性を測定し,更に中性子小角散乱を用いて他の油を用いたときの圧力誘起構造相転移の様子を観測する.これにより溶媒の種類と圧力誘起構造相転移の詳細な描像を比較検討し,この転移のメカニズムを明らかにしたい.
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