統計物理学の主要な目標の1つは、微視的な力学から出発して物質の相と相転移・臨界現象を理論的に記述し、予測する事である。これは例えば、エネルギー利用効率の改善や地球環境の理解といった現代社会の重要課題研究の基礎を与え、より精緻な研究へ向けての一里塚となろう。この目標に向けて前世紀の初頭以来、ほぼ百年に渡って研究が続けられてきたが、未だ多くの課題が残されている。1980年代以降、計算科学の台頭に伴い、計算機シミュレーションが強力な研究手段と認識されるようになった。 本研究代表者は非平衡緩和過程の解析が、これまでに開発された相転移・臨界現象を数値的に解析する手法の中で最も優れた方法となり得ることを指摘して「非平衡緩和法」として系統的な手法に整備し、さまざまな問題への応用を進めてきた。 本研究の目的は ・非平衡緩和過程の分析とそれに基づく非平衡緩和法のさらなる改良と拡張 ・基本的と考えられる様々な相転移・臨界現象の非平衡緩和法による精密な研究の 2つである。今年度は主にイジングモデルを使い、揺らぎの非平衡緩和過程を詳しく検討した。また、3次元XYモデル、ハイゼンベルグモデルなどの解析を行なった。特にスピングラス相とスピングラス相への転移について解析した結果、クローン相関の非平衡緩和過程の振舞いが解明され、またスピングラス相の多谷構造を示唆する結果が得られた。これらの結果詳細は論文として出版されている。
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