金属表面での化学反応系にみられる相分離現象のモデルとして、簡単化された3成分系のCahn-Hilliard型の方程式にある種の化学反応の効果を取り入れた非平衡のモデルを構築した。このモデルは、一方の極限で、高分子ブロック共重合体の系で典型的にみられるミクロ相分離現象のダイナミクスを記述するモデルに移行し、他方の極限で、通常のマクロ相分離のモデルに移行する。 モデル方程式の線形安定性解析により、Turingタイプの不安定性のほかに、有限波数でHopf的な不安定性を示すパラメータ領域が存在することがわかった。2次元の数値シミュレーションを行った結果、Turing不安定領域では静的な空間周期構造(ラメラおよびヘキサゴナル構造)が現れるのに対し、有限波数でのHopf不安定性領域においては、自発的に一定速度で伝搬するラメラおよびヘキサゴナル構造が存在するということが示された。このような相分離のモデルにおいて、ラメラ構造のみならずヘキサゴナル構造も伝搬し得ることを示したのはこれが最初である。 また、数値シミュレーション結果の解析から、進行するラメラおよびヘキサゴナル構造の出現は、それぞれ、超臨界および亜臨界分岐現象であることを明らかにした。さらに、これらの動的な構造に対し、振幅方程式を導出し、その方程式の対称性から、ヘキサゴナル構造の進行方向には2つのタイプがあることを予想した。実際に、それら2つのタイプの進行方向が存在することを数値シミュレーションの結果から確かめることができた。
|