高分子の構造形成機構を分子レベルで解明するため、我々は溶液中における高分子鎖の分子動力学シミュレーションを行い、配向秩序構造の形成過程を解析した。高分子鎖のモデルとして、最も単純な内部構造を持つポリメチレン鎖を用い、溶媒分子のモデルとして、6個のメチレン基が連結した短い鎖状分子を用いた。また、メチレン基(CH_2)は、一つの質点として扱った。分子力場として、DREIDINGポテンシャルを使った。シミュレーション手法として、速度Verletアルゴリズムを用い、系の温度を一定に保つため、Nose-Hoover法を使った。高分子鎖及び溶媒分子の本数は、それぞれ、1本及び、3747本とした。最初に、高温でランダムな配位の高分子溶液を作り、次にそれを様々な温度に冷却し、配向秩序構造の形成過程の解析を行った。その結果、初期においては広がったランダム・コイル状態を取っているが、時間の経過と共に、トロイド構造を経て、最終的に折り畳まれた配向秩序構造を形成することが明らかになった。さらに、この配向秩序の成長が、不連続に階段状に進行することを見出した。これまで、DNAの様なsemi-flexibleな高分子の場合、トロイド構造を取り得ることは、実験及びコンピュータシミュレーションにより知られている。それに対して、ポリメチレンのような結晶性高分子の場合、実験的困難のため、トロイド構造を取り得るかどうかは明らかではなかった。溶媒分子という抵抗媒質の存在する環境においては、結晶性高分子といえどもトロイド構造を取り得ることが、本シミュレーション研究により、世界で初めて明らかになった。
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