本研究は平成13年4月から同年8月の研究代表者の海外転出に伴う研究廃止までの期間行われた。本研究の目的は、非平衡散逸系のひとつである化学振動反応において、気液界面の張力が支配的となる媒質のフロー効果を反応拡散機構に取り入れ、化学流体系の界面ダイナミクスの記述法を確立することであった。研究方法は実験を通したモデル構築と数値実験で、表面張力不安定によって駆動される化学波(bigwaveと呼ばれる)を具体的対象とした。この系では液面に生じるソリトンの性質がダイナミクスの核心であることが筆者らによって明らかになっているので、まずこれを実験的に精密に調べ、ついでその挙動を記述するモデルを構築することとした。 上に記したbigwaveにおける不安定の原因は、強い表面活性をもつ反応中間物質の濃度勾配であるが、その不安定性の定量的な比較はまだ行われていない。そこでまずbigwaveとtrigger wave(流れがない通常の化学波)における表面張力の時空間分布をウィルヘルミー法により測定した。その結果、bigwaveにおける表面張力勾配はtrigger waveに比べて10倍程度も大きく、また表面活性物質の表面吸着の緩和時間は化学波の緩和時間に比べて長かった。これらから、モデルを構築するにあたっては表面活性物質の動的吸着過程を考慮する必要があることが分かった。次に、液面に生じるソリトンの時空間挙動を精密に測定する準備として、位相シフト干渉計およびデジタルホログラフィ干渉計を構築し、液面測定に際する特性と諸問題を整理した。すなわち干渉計の片腕の参照光位相を機械的にシフトし、125frames/sの高速カメラを用いて液面の位相分布を精密に測定することで、高粘度流体の波動を求めることができた。位相検出の標準偏差は波長の1/67であった。ただし低粘度液体では内的・外的要因による液面揺動のため難しく、位相シフト過程を高速化する必要がある。 さらに、化学波を記述する反応拡散方程式に動的吸着と運動量保存の式を加えたモデルを提案した。干渉計の性能向上によるソリトンの精密計測とモデルの数値実験による検証が未解決の点として残された。
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