ボース凝縮体における量子渦生成や量子トンネル効果の観測には、凝縮体の光トラップと光学的な非破壊観測が重要である。昨年度の予備実験から、凝縮体の光トラップにはトラップレーザーの高出力化とモード成形が必要であると分かったため、まずトラップ用半導体レーザー系の改良を行った。また凝縮体へのポテンシャル導入用に半導体チップを用いたレーザー系の開発も新たに行った。これにより高出力かつ安定、安価な光トラップ用レーザーシステムに関する技術的知見を得ることができた。 また、新たにプローブ用半導体レーザーシステムを製作し、位相コントラスト法による磁気トラップ中の極低温Rb原子集団の非破壊観測実験を行った。磁気トラップ中の原子を蒸発冷却で10^<13>cm^<-3>程度の高密度で約800nKの極低温にまで冷却したのち、共鳴から約200MHz離調したレーザー光を入射し、原子による回折光と透過光に位相差をつけて干渉させ、原子集団の画像を得た。通常の共鳴光による吸収観測では加熱などにより測定が不可能であるが、この位相コントラスト法によりほぼ非破壊的に観測することに成功した。得られた画像は倍率約6.5倍、分解能約7μmであった。この分解能は磁気トラップした凝縮体の軸方向サイズより十分小さく、軸方向であれば凝縮体の変化を実時間で連続観測可能であるという結果が得られた。 最後に、昨年度、磁気トラップした原子集団に強制振動を加えると加熱だけでなく冷却効果も起こるという意外な結果を見い出したが、今年度は更に理論的、実験的に研究を進め、この冷却効果が、トラップポテンシャルの非調和性に基づく振動数選択的な原子のエネルギー吸収と、過熱された高温原子の蒸発による効果であることを定量的に明らかにした。未だ不明な点も多い低温原子集団のダイナミクスの一端を明らかにできたことに加え、新しい原子冷却法の一つを提案した点で意義深い。
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