本研究の目的は、分子軸方向を空間的に固定された分子による電子の散乱断面積を実験的に測定し、電子が分子に散乱される際の分子の配向に関する知見を得ることである。分子軸のそろった気体試料の生成は、高強度静電場やレーザー電場を用いる方法などが試みられているが、いづれの方法でも電子と分子の衝突領域に外場が加わっており、入射・散乱電子が大きく影響を受けてしまうので低エネルギー電子を扱う本研究には適さない。そこで本研究では、入射電子エネルギーが20eV以上の電子-分子散乱で比較的よく起こる解離性イオン化過程に着目し、解離性イオン化により生成する解離イオンを散乱電子と同期して測定することにより散乱時の分子軸の配向情報を得る手法を用いた。分子の解離が分子の回転周期に比べて速い解離過程を選び解離イオンを検出すれば、その放出方向には散乱時の分子軸の配向が直接反映されていると考えられる。この手法で測定を行うためには、散乱電子、解離性イオン化による放出電子および解離イオンのすべてについて運動エネルギーと角分布を得る必要があるため、本研究で散乱電子および放出電子の測定にエネルギーを同時に測定出来る積分型の分析器の製作を行った。この電子エネルギー分析器には位置敏感型のマイクロチャンネルプレート電子検出器を使用し、測定回路を工夫することで散乱電子と放出電子の両者を1台の電子エネルギー分析器で測定する。
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