前年度では、大規模な自然現象である火災旋風について定性的に調べるため、密度成層を考慮した下での、高温度差をもつ熱対流の数値シミュレーションを行ってきた。今年度では、そこで用いた計算コードを使って、実際の地形データを用いたより現実的な問題に取り組んだ。山岳の起伏等による風の変化の様子は、例えば、山からの強い吹き降ろしの風の予測や、近年開発に力を注がれてきている風力発電のための風車の設置場所の選定などに、深く関わっている。このような局地風について、富士山とその周辺の地形による流れの変化をモデルケースとして、試験的な数値シミュレーションを行った。安定成層条件の下でシミュレーションを行った結果、安定成層の影響で地上からある高さまでにおいて、地形に依存して複雑に変化する空気の流れの様子がとらえられた。しかし、ある高さを境に、そこより上空では地形の影響はほとんど見られないということも観察された。また、安定成層が、ちょうど水平の蓋のような役目をしていることで、流れは二次元的になり、鉛直方向での風の逃げ道が無い分、局所的に強くなる傾向が示された。本研究では、いわゆる気象シミュレーションのような複雑な反応等を考慮せず、パラメータも非常に少ないシンプルなモデルによる局地風の数値計算を行った。これは例えば、空気の流れによる雲の発生のような気象現象までをとらえるものではなく、そのような意味で純粋に自然現象をシミュレートしたものではないが、空気の流れのみに注目した場合に、複雑な地形に沿って、また成層条件下で風が変化する様子を忠実に捉えたシミュレーションである。観測という作業は、その正確性をあげるために相当の労力を要し、観測結果の考察も難しいものであるが、数値シミュレーションにより理論的に正しい流れが予測できれば、様々な局地風の問題解決に大きな助けとなると思われる。本研究はそれを予想させるものである。
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