北太平洋中層水起源水などの水塊、海氷の輸送経路として重要なオホーツク海西岸域に見られる東カラフト海流の成因を調べるために2層プリミティブ方程式系モデルをもちいてオホーツク海の風成循環、特にその季節変動とそれに対する海底地形の影響を調べた。モデルの駆動力となる風応力の計算には海洋と海氷上とで抵抗係数が変化する効果を簡略化してとり入れた。地形的特徴を理想化した実験によると、西岸域の流量は季節風の強い冬季に増大するが、その季節変化の大きさは北ほど浅くなる海底斜面が存在する場合には、海底が平坦な場合に比べ小さくなる。これはオホーツク海の様な高緯度域では傾圧的応答に要する時間が10年以上と長く、季節変動はほどんど順圧的な応答で記述できること、そのとき北ほど浅い斜面上では地形性ベータ効果が惑星ベータ効果を強化するために循環を弱めること、による。逆に南ほど浅い斜面は勾配がある臨界値より小さい場合には季節変化の振幅を大きくする。それらの季節変化の大きさは解析的にも求めることが出来る。また東ほど浅い斜面はやはりベータ効果を強化するために季節変動の振幅を小さくする。西ほど浅い斜面は流れの流路を季節変化させるが正味の流量変化への寄与は小さい。オホーツク海の海底地形は北ほど徐々に浅く、また東岸と西岸付近で浅くなる形をしており、実際に現実的な海底地形について数値実験を行ったところ、理想化された場合と同様に流量の季節変化の振幅が小さくなることが確かめられた。このことは申請者の参加した最近の観測結果とも一致する。また海氷の存在は風の抵抗係数を大きくすること、海洋に伝わる風応力の方向を風向きに対し右に曲げること、の2つの効果をもつが、オホーツク海の場合両方の効果とも西岸域の流量を大きくする方向に働き、その影響の大きさは同程度であった。
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