研究概要 |
2次元(2D)乱流によって受動的に移流・拡散される濃度場や温度場(パッシブスカラー場)の研究は,大気・海洋中の大規模な流れ(地衡流)によって輸送される浮遊物質の挙動の研究への応用を期待され,1960年代から研究されてきた.2D乱流中のパッシブスカラー場の研究を地球流体力学的問題へ応用する場合には,地球の自転角速度の緯度依存性(β効果)と,変形半径の有限性の効果について考察する必要がある.パッシブスカラー場に対するβ効果の寄与については多くの研究があるが,変形半径の効果を調べた研究はほとんと見当たらない.そこで,本研究では変形半径よりも大きな空間スケールをもつ地衡流(以下,大規模地衡流と呼ぶ)乱流中のパッシブスカラー場の動力学について考察することを目的としている.本年度は特に,パッシブスカラー場を移流する乱流場の研究を精密化することに集中した. 減衰性2D Navier-Stokes系では,無秩序な場から長寿命で安定な渦(秩序渦)が自発的に出現する.この秩序渦の存在のために,乱流場の統計的性質はBatchelor(1969)の古典理論から大きくずれる事が知られている.しかしながら,申請者の研究グループでは大規模地衡流乱流系では,秩序渦が存在するにも関わらず渦位場の動力学はBatchelorタイプの古典的理論で極めてよく説明できることを示唆する結果を得ていた(Watanabe et al. (1998)).そこで,Watanabe et al. (1998)で得た結果をさらに精密化するために,Batchelorの相似仮説を用いてエネルギースペクトルの相似形,さまざまな物理量の確率密度関数の相似形,それらの物理量のn次モーメントの時間発展の指数を理論的に予測した.さらに数値シミュレーションによって,理論的結果の正当性を証明するとともに,結果の物理的考察も行った.この研究成果は,Journal of Fluid Mechanics vol. 456,183-198に掲載が決定されている.なお,これらの結果を受けて次年度では,大規模地衡流乱流によって移流されるパッシブスカラーの研究を本格的に始める予定である.
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