大気中のメタン(CH_4)は二酸化炭素に次いで重要な温室効果気体であり、産業革命以降の人間活動の活発化によって大気中の濃度が急激に増加していることが知られている。CH_4の炭素同位体比(δ^<13>C)はCH_4の放出源ごとに値が大きく異なっていることから、大気中のCH_4のδ^<13>Cを精密に測定することによって、地球表層におけるCH_4濃度の変動原因に関する情報を得ることができると期待されている。本研究では、現有のガスクロマトグラフ質量分析計を改良し、少量(50-100ml)の大気試料を用いてCH_4のδ^<13>Cを0.05パーミルの精度で測定可能なシステムの開発を目指している。さらに本システムを用いて北極域で採取された大気試料中のCH_4のδ^<13>Cを測定し、北極域において観測されるCH_4濃度の季節変化への各CH_4放出源の寄与を明らかにすることが目的である。 本年度は、まず質量分析計の試料濃縮部及び燃焼炉に手を加え、これまでは燃焼炉部分に大気試料中の酸素とCH_4が共に導入されていたものを、試料中のCH_4のみが導入されるように改造した。その結果、燃焼炉部分でのCH_4-CO_2変換効率が安定し、結果として分析精度の向上が見られた。さらに、試料濃縮部と質量分析計の接続部分にも改良を加え、試料流路中に流れのよどみが生じないよう工夫することにより、クロマトグラフ上のCH_4ピークの再現性が向上した。これらの改良によって、大気試料(CH_4濃度1.8ppmv)を50ml用いた時のδ^<13>Cの分析精度は0.07パーミル(標準誤差)に向上した。 また、1991年から実施している北極・ニーオルスン観測拠点での大気採取を本年度も継続し、CH_4濃度の観測とδ^<13>C測定用大気試料の保存を行った。来年度は、保存した大気試料のδ^<13>C分析を実施し、北極域でのCH_4放出源強度の季節変化について考察を行う。
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