1)沿岸における汽水環境変化に呼応する貝殻の特徴を検出する試料を得るため、人工湿地(島根県の汽水湖・神西湖の湖水を連続供給し、水温・塩分が常時測定されている)において、汽水性二枚貝の成長を把握した。個体識別した平均殻長20mmのヤマトシジミ成貝Corbicula japonicaを30cmx30cm積のケージ内で(重量密度約2kg/m^2)飼育した。ヤマトシジミの貝殻の稼辺には約1ヶ月に一度の頻度で標識を施し、殻のサイズ(重量・殻長・殻高・殻幅)を測定した。また、湿地内の任意の個体について軟体部重量を測定した。その結果、殻体の成長は5月に最も大きく50μm/day程度であった。その前後4月・6月・7月はそれに次ぐ殻体の成長があったが、8月には成長が鈍化した。9月以降、再び成長が始まるが、初夏と比較するとその成長量は小さく、冬に向かって水温が低下するに従い、殻成長は鈍化した。一方、軟体部重量は6月に向けて増加した後、9月に向けて減少した。9月以降は増加し、特に11月に大きく増加した。この期間に形成された貝殻の断面をみると、外殻層に不透明層と透明層が現れ、透明層の形成時期は個体差が認められたが、基本的には6月から10月の間に、約2ヶ月間で形成されていた。 2)ヤマトシジミ殻体の断面を作成し、走査型電子顕微鏡で構造の観察をおこなった。不透明層と透明層はともに微細交差板構造であるが、構造の微細な特徴に違いがあった。不透明層には数ミクロン間隔の微細な強弱の成長線が認められたが、透明層においては、数十ミクロン間隔で強い成長線のみがみられた。 3)ヤマトシジミ殻体の断面において、殻層に沿って約400ミクロン毎に殻体を切り出し、成長にともなう炭素・酸素安定同位体比の測定を行った。δ13Cの値は-8.59‰〜-2.35‰、δ180は-9.52‰〜-4.31‰の値の範囲内で変動した。
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