研究概要 |
本研究の主たる目的は,地球環境変動や埋没変成作用の指標として重要な研究対象である天然雲母粘土鉱物の結晶成長過程・機構に関する新しい解釈・モデルを提示し,また,その応用として特に地球の古気候変動の復元を試みることにある.本年度は,前者に関する実験及び解析に主点をおいて研究を進める計画を立てたが,後者の研究目的に対しても若干の成果が出ている.以下に本年度の研究実績を概要する. 1.原子間力顕微鏡を用いて,粘土粒子サイズの形態観察やその表面に形成されたユニット・セル・オーダーの結晶成長模様やステップの観察に成功し,また,その情報が高精度であることを実証した.この実験手法の応用として,ある雲母結晶がどのような結晶構造であるかを決定するときの有効な手段の一つであることを提示した. 2.雲母粘土鉱物の原子間力顕微鏡観察により,2Oポリタイプに属する結晶粒子を世界で初めて発見した.また,雲母粘土鉱物の結晶成長過程・機構に関する新しい解釈を提示した.雲母粘土鉱物は成長過程において,溶液の過飽和度の変化によりその結晶成長様式,特に,スパイラルの形状とポリタイプを変化させながら結晶成長を進める.以前に述べられた「雲母粘土鉱物のポリタイプと形態には密接な関係がある」という解釈は,必ずしも当てはまらなく,むしろ,雲母のポリタイプや形態は,周囲の環境(溶液の過飽和度等)に支配されていることが明確になった. 3.雲母粘土鉱物の結晶構造変化の特性に注目して,ネパール・カトマンズ盆地堆積物を対象にネパール・ヒマラヤ地域の古気候・古環境変動の復元に当たっている.現在までに,埋没変成作用の指標として開発されたXRD decomposition法による雲母粘土鉱物の結晶度指標が,古気候変動の指標として有効であることを実証した. これらの研究成果については,すでに幾つかの論文で公表,あるいは公表予定である(裏面,研究発表を参照).
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