研究概要 |
微量元素の濃度および同位体比は、地球科学試料の成因や物質循環を知る上で広く利用されているが、微量元素の化学状態(価数・結合状態)をもとに地球化学的知見を得る研究はまだ発展途上にある.本研究では、主にXANES法やレーザー誘起蛍光法を用いて岩石・土壌などに含まれる元素(Ce, Fe, Mn, As, Cmなど)の価数を調べ、これらの元素の酸化還元状態から以下の知見を得た. 1.鉄-マンガン酸化物への微量元素の濃集:マンガン団塊に含まれるCe、Co、Pbの酸化還元状態を調べた.CeやCoは酸化形である4価・3価の状態で含まれており、酸化的吸着が主要な濃集メカニズムであることが分かった.一方Pbではこれまで示唆されていた酸化形である4価は主要な化学状態ではなく、他の濃集メカニズムを考える必要が生じた。選択的溶出法などの結果から、鉄酸化物への高い親和性がPbの濃集には作用していることが推定された. 2.ジルコン中のCeの酸化還元状態:ジルコンの希土類元素パターンは正のCe異常を示し、Ce(IV)がジルコンには含まれていることがこれまで予想されてきた.XANES法によるCeの価数の直接測定を行ったところ、Ce(IV)の寄与が見られ、上の予想が正しいことが分かった.しかし一部のジルコンにはCe(IV)は殆ど含まれおらず、ジルコン生成後にCe(IV)の還元が生じたと考えられる.γ線照射等の実験から、このCe(IV)の還元量はジルコンに含まれるU・Thとその系列核種から放出される放射線の効果によって説明され得ることが示唆された. 3.モンモリロナイト-フルボ酸複合体上のCmの化学状態:レーザー誘起蛍光法によるCmの水和数測定などから、フルボ酸の存在下でCmはフルボ酸錯体としてモンモリロナイトに吸着されることが分かった.
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