本年は前年の研究成果をまとめ論文を発表すると同時に新しい測定手法である「過渡吸収検出ナノ秒磁場スイッチング法」を開発し新しい実験成果を得た。 前年に引き続き生体分子の最も基本的な分子フラビンアデニンジヌクレオチドにおける、磁場効果アクションスペクトルを解析し、励起三重項状態とビラジカル種間に高速の行き来による平衡が存在しその平衡が溶液のpHにより変化する事を明らかにした(Chem.Phys.Lett.362(2002)123-129)。さらに詳しい解析によりその平衡定数を求める事に成功し、さらなる解析から平衡状態における行き来の反応、ビラジカル、励起三重項状態の失活反応全ての反応速度定数を求める事に成功した。この成果は近いうちに公表する予定である。 ナノ秒のパルス磁場と過渡吸収装置を組み合わせる事により、「過渡吸収検出ナノ秒磁場スイッチング法」を開発した。この手法による新しい実験成果は2種類ある。1つ目は磁場パルスによる反応の変化を測定する事により、磁場効果の時間変化からラジカル対の再結合反応に対する磁場効果のスピン緩和の影響についてより精密に測定可能となった事であり、パルスMARY法呼ぶことにする。ミセル中におけるリボフラビンのインドール誘導体との反応における実験から、スピン緩和の寄与について新たに明らかにする事が出来た。もう1つは、ラジカル対の寿命の途中で磁場をスイッチングする手法である。この手法のテストとして、ミセル中のメチルナフトキノンの反応を用いて実験を行い、理論計算と比較した結果、本手法により比較的低磁場中における電子スピン緩和時間を測定するのに、本手法が非常に有効である事が明らかとなった。
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