平成14年3月に分子科学研究所に導入された極低温超高真空STMの立ち上げを行ない、グラファイト、金などの基板表面の原子像が観察できることを確認した。金およびパラジウムのナノ粒子を液相中で合成し、空気中で基板表面にキャスト法で吸着させSTM観測を行なった。電子顕微鏡で観察した結果とほぼ一致するサイズ(粒径約4nm)で、ナノ粒子が観察された。 金ナノ粒子は波長530nm付近でプラズモン吸収を起こす。これによって発生する双極子同士の相互作用を利用してナノ粒子を集団的に駆動することを試みた。しかし、ナノ粒子の吸着量の制御に困難があり、クラスターが多層に吸着してしまった。現在サブモノレイヤーでの光照射の効果を確かめるために実験方法を改善中である。 多層吸着した金ナノ粒子は、興味深い高次構造を形成することがわかった。金ナノ粒子のマルチレイヤーはステップやテラス構造をもち、最表面のナノ粒子のSTM像は列状につながって観測された。その列の方向はローカルに見ると平行に揃っており数十ナノメートルにわたるドメイン構造が見られた。隣接するドメインでは列の方向が互いに120度異なっていた。さらに、それぞれのドメインにおける列の向きや面積は時間とともに変動した。このようなドメイン構造が形成されるメカニズムについては検討中である。 一方、パラジウムナノ粒子を金(111)面に吸着させて、波長575nmのピコ秒レーザーパルスを照射しながら数時間にわたってSTM観察を行なったところ、光の偏光方向に応じ、ナノ粒子による列状構造の形成と崩壊を示すSTM像が見られた。今後、レーザー光の波長および強度依存性、基板の種類への依存性などを調べ、ナノ粒子の配列をより精密に制御する方法を追及する。
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