研究概要 |
本研究は血漿リポタンパク質を振動分光学的手法で調べることにより、タンパク質脂質相互作用を解析する方法論の開発とその臨床化学的な応用を目的とし、次のようなテーマに焦点を絞って研究を推進した。 (1)超低密度、低密度リポタンパク質(VLDL,LDL)の状態解析:VLDL、LDLの構成物質について溶液中と固体フィルムの赤外・ラマン測定を調べた。リポタンパク質の赤外スペクトルを帰属するために、脂質のスペクトルデータをベース化した。1750-1700cm^<-1>付近のエステルCO伸縮振動領域に着目したところ、リポタンパク質中のコレステロールエステルのマーカーになるだけでなく、遊離脂肪酸のカルボキシル基も反映する可能性が高いことがわかった。 (2)高密度リポタンパク質(HDL)亜分画のタンパク質脂質相互作用:HDL亜分画のタンパク質と脂質の構造解析を赤外分光法で調べた。その結果、タンパク質と脂質の組成、構造の違いがエステルCOバンドとアミドバンドの強度に反映されることが明らかになった。各HDL亜分画のアミドIバンドのパターンは、主成分タンパク質であるアポリポタンパク質A-Iのパターンと類似していた。従って、HDL中のアポリポタンパク質A-Iの二次構造は脂質との相互作用によりほとんど起きていないことがわかった。 (3)FTIR法のモデル動物血漿への応用:高脂血症モデル動物(ウサギ)の血漿をFTIR法を用いて解析したところ、血漿中のコレステロールエステル、中性脂肪の状態解析の切り口になることがわかった。さらに、フンボルトペンギンの孵化前後の血漿を調べたところ、孵化前に血中の中性脂肪濃度が増加することを赤外エステルCO伸縮振動バンドを用いて追跡できることがわかった。今後ヒト血清に適用すれば、コレステロールエステル、中性脂肪の新しい状態解析法として確立されることが期待できる。
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