単結晶X線結晶構造解析法は、分子・結晶構造の詳細な知見を得ることができる手法として、物質・物性研究で広く用いられている。しかしながら、この手法が適用できるのは、0.1mm程度の単結晶状態にある物質についてだけであるという制限があり、微細な粉末結晶、非晶質、液体化合物については適用が難しい。一方、分子を構成する原子数の少ない液体化合物については、産業的に重要な物質も多くまた分光学的、理論的な研究も多く行われており、その構造に非常に興味が持たれている。そこで本研究は、常温で液体である化合物について低温下で単結晶を作成する技法を開発し、さらに単結晶構造解析を行ってその分子・結晶構造を明らかにすることを目的としている。 第一年度の目標としては、液体化合物の単結晶作成およびX線回折技法を確立することとした。作成する単結晶についてX線回折測定を行うためには、-100℃以下の低温条件を測定装置上で保つ必要があるため、特に迅速にX線回折測定を行うことができる、迅速測定装置上で単結晶を測定する技術を確立することに成功した。これは、化合物の融点直下で種結晶を発生させ、温度制御により数mmの大きさにまで結晶を成長させるものである。この手法により、高分子材料であるスチレンの単結晶を作成することに成功した。さらに単結晶X線構造解析の結果、スチレンの分子・結晶構造を明らかにした。理論計算による分子構造と構造比較を行ったところ、ビニル基とベンゼン環のねじれ角が予想より小さく、結晶中のパッキングによる分子変形を確認した。また、結晶状態でビニル基の重合の可能性を検討したところ、重合が起こった場合には螺旋状の高分子となりうる分子配置であることを明らかにした。これらの知見をActa Crystallographica Sect.Eに論文発表した。
|