C6程度の分子量を持つ単純な低分子化合物については、室温で液体であるためこれまで結晶構造解析による研究が行われてこなかった。一方でこのような低分子については逆に非常に多彩な手段によって理論計算、分光学的測定がなされており、分子や結晶の3次元構造の決定については多大な興味が持たれている。そこで、本研究では2次元検出器を用いた新しい迅速X線回折計と窒素吹き付け型低温装置を組み合わせることにより、有機物理学の分野で興味が持たれている液体化合物について結晶化を行い結晶構造の解析を目的とした。 メトキシカルボニル基をもつ低分子化合物の結晶化とX線結晶構造解析に初めて成功し、液体化合物結晶化の条件を検討するとともに、X線結晶構造解析を行い精密な三次元分子構造を行うことができた。特に酢酸エチルについては、合成溶媒や工業原料として有用な化合物であり、その分子構造はこれまで多数の理論計算によって検討されてきたが、今回初めて結晶状態の分子構造が決定できたため構造の比較を行った。また一連の分子の基本的物性である融点が結晶構造中にみられる水素結合パターンと相関があることを見いだした。融点にみられる偶奇効果が水素結合パターンで説明できる例は初めて見いだされたものである。 さらにビニル基を併せ持つ低分子化合物についても結晶構造を明らかにしビニル基の重合反応性について検討を行った。 以上、本研究の成果は(1)低融点化合物結晶化手法の確立、(2)メトキシカルボニル基をもつ低分子化合物の結晶構造解明、(3)融点と結晶構造の相関の解明、とまとめられる。
|