本年度は、主としてエアロゾル表面構造の理論的解析を行った。大気圧下での微視的な表面構造をプローブできる数少ない有力な実験手法としてsum frequency generation(SFG)スペクトルに着目し、その理論的な解析を通じてエアロゾル表面構造を同定するための手法を開発した。本研究では、振動数依存の非線形感受率の共鳴項を系の分極率Aと分極Mの時間相関関数<A(t)M(0)>をもとに表現し、これを分子軌道計算と分子動力学シミュレーションを用いて非経験的に計算する方法を提出した。さらにそれをまず水表面に適用し、実験で得られているスペクトルを表面構造に即して詳細に解析した。 また、エアロゾル表面での不均質大気反応の反応機構についても研究を行った。南極のオゾンホール形成上重要な役割を果たす不均質反応のひとつである硝酸塩化物(ClONO_2)の加水分解に関して、反応中間体として考えられるH_2OCl^+の存在を分子軌道計算および赤外スペクトルの解析を通じて検討し、氷表面上の反応はこの中間体を経由しない一段階で進むことを実証した。 さらに硫酸や硝酸を濃厚に含んだ一般的な成層圏エアロゾルを分子動力学シミュレーションで扱う準備として、分子モデルの開発を行った。成層圏エアロゾルの多くは強いイオン強度や酸強度をもった媒質で、そのため分極可能な分子モデルが必要である。そこで以前に我々が開発したcharge response kernelモデルを改良し、適用範囲を広げた新しい分子モデルを提出した。
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