研究概要 |
従来,様々な液体や高分子などの非結晶性物質について,広い温度,周波数域の誘電分光測定により,液体状態からガラス状態までの動的構造について多くの研究が行われてきた。本研究ではガラス転移温度までの低温でも水の凍結が起こらない濃度の高分子水溶液の誘電分光測定を行い,高分子水溶液におけるガラス転移現象の一般論を確立することを目的とする。 65wt%PEG400,600水溶液について広帯域誘電分光測定とDSC測定を行った。PEG400水溶液では高温側で緩和が一つ観測されたが200K以下の低温側ではこの緩和は2つに分離した。また,PEG600水溶液では液体状態からガラス転移温度まで1つの緩和過程しか観測されなかった。しかし,PEG400水溶液とエチレングリコールオリゴマー水溶液で観測された緩和との比較とDSC測定により,PEG600水溶液でも観測された緩和よりも低周波側にもう一つ緩和が存在し,この緩和は低周波側の不純物によって引き起こされる分極に隠れて見えないということがわかった。以前は高分子水溶液でfragile-strong転移が起こっていると考えていたが,今回の実験により高分子水溶液でも様々なガラス形成物質と同様,低温側で2つの緩和に分離することがわかった。またこれらの結果は純水のガラス転移現象に関する研究に新たな情報を提供することができる。 広い温度と周波数域で観測される緩和の特徴が高分子水溶液と似た3EG水溶液と,数種類のアルコール水溶液で含水率を変化させ広帯域誘電分光測定を行った。これらの水溶液でも高温側で緩和が一つ観測されるが,この緩和は低温側で2つの緩和に分離する。今回,含水率を変化させた測定の結果により,高周波側の緩和は主に水溶液中の水分子の運動が支配的であり,低周波側の緩和は主に溶質分子と水分子の協同的な運動であることが示唆された。
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