本研究では、不揮発性試料のための質量スペクトルの測定を目標として、試料導入システム及び飛行時間型質量分析装置の設計と製作を行った。この装置を用い、まず、ジクロロメタン中で生成する、シクロペンタジエニル(Cp)-バナジウム(V)-酸素(O)混合クラスターの質量スペクトルの測定を試みた。この試料は融点および沸点が非常に高温であるため、ガス化を必要とする従来の質量分析計での測定は困難である。このサンプルをメタノールに溶解させ、それを直接本研究で開発した質量分析装置へと導入して、このクラスターの質量スペクトルの測定に世界で初めて成功した。質量スペクトルによると、(CpV)_4O_4、(CpV)_5O_6、(CpV)_6O_n(n=6-8)等のクラスターが非常に多く生成していることがわかる。また、これらのクラスターに、(CpV)ユニットが複数個付加したサイズの大きいクラスター種も多数観測されている。これらの結果についてはThe Journal of Physical Chemistry Bにて既に報告した。上記の実験は、レーザー蒸発-レーザーイオン化により行ったが、イオン化法の違いによる、観測されるクラスターサイズ分布の影響を調べるために、レーザー蒸発-電子衝撃イオン化による実験も試みた。試料はCo_4(CO)_<12>を用い、レーザーイオン化と電子衝撃イオン化による質量スペクトルの違いを検討した。この結果によると、レーザーイオン化よりも、電子衝撃イオン化の方がクラスターの破壊が少ない、つまりよりソフトなイオン化法であることが明らかとなった。現在、この質量分析計の感度向上を目指して装置を改良中である。
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