研究概要 |
1.9,10-ジヒドロ-9,10-ジスタンナアントラセンのハロゲン化 本研究では新規な9,10-ジスタンナアントラセンを合成標的化合物に設定し、まず我々が合成に成功した新規な9,10-ジヒドロ-9,10-ジスタンナアントラセンのスズ上にハロゲンを導入することを検討した。スズ上にアルキル基を有する9,10-ジヒドロ-9,10-ジスタンナアントラセンの臭素及びヨウ素を用いたハロゲン化反応では、スズ-フェニル結合が選択的に切断され、アントラセン骨格が壊れることがわかった。そこで、スズ-メチル結合を切断してスズ上に塩素を導入する反応が知られている三塩化ホウ素及び四塩化ゲルマンとの反応を検討したところ、反応は速やかに進行し、単一の生成物を与えた。その質量スペクトルを測定したところ、アントラセン骨格を保ったままスズ上が塩素化された化合物に由来すると考えられるピークを観測した。現在、その生成物のX線構造解析を検討中である。 2.ビ(1,1-スタンノール)及びスタンノールアニオンの合成 これまでに合成例がないビ(1,1-スタンノール)を初めて合成することに成功した。この化合物はスタンノール骨格がスズ-スズ結合を介して繋がっている初めての化合物で、室温で可視部に蛍光を観測したことより、新規なπ電子系化合物として興味深い。 ビ(1,1-スタンノール)は芳香族性を有するシクロペンタジエニルアニオンのスズ類縁体として興味深いスタンノールアニオンの前駆体になると予想される。そこで、ビ(1,1-スタンノール)にブチルリチウムを作用させたところ、反応溶液はスタンノールアニオンの生成を示唆する濃赤色を呈した。この反応混合物にヨウ化メチルを作用させたところ、1-メチル-1-フェニルスタンノールが得られたことから、反応の中間に初めてのスタンノールアニオンが発生していることが示された。
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