研究概要 |
本プロジェクトは化合物の微細構造の決定や高機能性の発現に大きく寄与する弱い相互作用の解明を目指し、アントラセンの1,8,9-位を中心として、第16族元素間の非結合相互作用について研究を行った。なお弱い相互作用の解明は、分析機器の検出限界への挑戦という側面をもつため、計算科学の手法を駆使して研究を進めた。 非結合相互作用を経由した5c-6e系の構築を目指して、1,8-ビス(フェニルセラニル)アントラキノン(1a)および9-メトキシ-1,8-ビス(フェニルセラニル)アントラセン(2a)を合成し、X線結晶構造解析を行った。その結果、1aおよび2aの5個のC-Se…O…Se-C原子は、直線状に並列し、5c-6eを形成していると期待できる結果を得た。一方、1,8-ビス(フェニルセラニル)アントラセン(3a)の場合,には、C-Se…H…Se-C原子による直線状並列はみられず、有効な非結合相互作用は確認できなかった。フェニル基のパラ位に塩素を導入した化合物1b、2bについても同様の結果が得られた。 1aおよび2aにおけるセレンと酸素の非結合距離は、両原子のvan der Waals半径の和(3.40Å)よりも約0.7Å短いため、両原子上の軌道間にはかなり有効な重なりが生じるものと期待された。そこで1aおよび2aにおけるC-Se…O…Se-C 5c-6eの性質在究明するため、1a、2aおよび3aについて非経験的分子軌道計算を行った。その結果、このC-Se…O…Se-C5原子直線状並列は、中央の酸素原子から両端のセレン原子方向に本がるP-性の非共有電子対(n_p(O))と両端の2個のσ^*(Se-C)との相互作用の結果であることが明らかとなった。すなわち、これらの系で見出された5c-6eは、2個のn_p(O)→σ^*(Se-C)非結合性3c-4eが中央のn_p(O)を直線状に共有した結合であることを明らかにした。
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