これまで我々は、ヘリセンジオールをさまざまな溶媒から再結晶することにより包接結晶や超分子結晶を得、その構造をX線結晶構造解析によって調べてきた。その中で、取り込んだ溶媒の種類やヘリセンジオールの立体構造で超分子構造が大きく異なり、ヘリセン骨格の構造も大きく変化することを明らかにしてきた。 本研究では、ヘリセン分子の新しい機能の発現を目指し、らせん構造を有する不斉配位子への展開を図るため、ヘリセン骨格を有するビスホスフィン化合物の合成を行った。まず、無置換のヘテロヘリセンを過剰量のn-ブチルリチウムで処理したところ、両末端のチオフェン環のα位を選択的にジリチオ化することができた。このジリチオ体にクロロジフェニルホスフィンを反応させると、ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘリセンが好収率で得られた。ラセミ体のビスホスフィン化合物にD-ショウノウ-10-スルホン酸アジドを反応させることにより、ホスフィンイミンへと誘導したところ、カラムクロマトグラフィーによりジアステレオマーを完全に分離することに成功した。ホスフィンイミンの各ジアステレオマーを、それぞれ硫酸で処理することによって不斉源を除去した後、トリクロロシランで還元することにより、対応するビスホスフィンのエナンチオマーをそれぞれ得ることができた。 また、ヘリセン骨格とジフェニルホスフィノ基との間にメチレン鎖をはさんだ化合物についても、光学活性なヘリセンジオールから合成することができた。そこで、これら二種類の化合物について、その不斉配位子としての能力を調べるとともに、構造と物性の変化についても研究を進めていきたいと考えている。
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