院内感染治療薬バンコマイシンの不斉合成研究

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13740358
• 研究種目: 奨励研究(A)
• 研究機関: 大阪府立大学
• 研究代表者: 神川 憲 大阪府立大学, 総合科学部, 助手 (40316021)
• キーワード: バンコマイシン / アトロプ異性 / 面不斉 / クロスカップリング

研究概要

(アレーン)遷移金属錯体による不斉反応は、これまでにも数多く報告されているが、そのほとんどが(アレーン)錯体の側鎖における不斉点の制御や芳香族への求核置換によるものであった。今回、(アレーン)クロム錯体の持つ面不斉を利用した立体選択的鈴木一宮浦クロスカップリング反応により、軸不斉光学活性ビアリール化合物を効率良く合成する手法を開発した。これまでにこの研究により得た最も注目すべき結果は、フェニルホウ酸のオルト位の置換基の選択、あるいはカップリング後における熱による軸異性化を行うことにより、単一のアレーンクロム錯体から軸異性体の両アトロプ異性体を完壁に作り分けることができるようになうた点である。そこで、この方法論を用いて軸木斉を有する天然有機化合物の合成研究を行った。その結果、院内感染治療薬の最後の切り札とされているバンコマイシンの軸不斉を有するA-B環ビアリール骨格を世界ではじめて立体選択的に合成することに成功した。また、軸不斉を有する天然物合成研究の過程で、ベンジル位に水酸基を有するSyn体のビアリールクロム錯体を加熱還流を行った際に、クロムトリカルボニルが分子間で反対の芳香環面に完全に再配位して、面不斉の立体化学が完全に反転したAnti体が得られる興味深い現象も発見することができ、この反応機構の解明を目指して検討中である。

研究成果

• [文献書誌] Kamikawa, K., Furusyo, M., Uno, T., Sato, Y., Konoo, A., Bringmann, G., Uemura, M: "Diastcrcosclcctivc Ruthcnium-Cp Complcxation of Enantiopurc Arcnc Compounds Possessing Stereogenic Benzvlic Alcohol Functionalities"Org. Lett.. 3. 3667-3670 (2001)
• [文献書誌] Kamikawa, K., Watanabe, T., Uemura, M.: "Asymmetric Synthesis of Axially Chiral Biaryls Utilizing planar Chiral Arene Chromium Complexes"I. Synth. Org. Chem. Jpn.. 59. 1078-1085 (2001)
• [文献書誌] Kamikawa, K., Tachibana, A., Sugimoto, S., Uemura, M: "Stereoselective Synthesis of Axially Chiral A-B ring System of Vacomycin Utilizing a Planar Chiral Arene Chromium Complex"Org. Lett.. 3. 2033-2036 (2001)
• [文献書誌] Chicffi, A., Kamikawa, K., Åhaman, J., Buchwald, S.L.: "Catalytic Asymmetric Vinylation of Ketone Enolates"Org. Lett.. 3. 1897-1900 (2001)