研究概要 |
タキソールの不斉全合成研究において明らかにした方法に基づき、本年度は19位に水酸基を導入したタキソール類縁体を合成し、水に難溶なことが問題とされているタキソールの溶解性の向上を図る検討を行った。まず、最近開発した新しい合成ルートに則り、安価で入手容易なD-パントラクトンを出発物質としてタキソールの合成中間体である光学活性な鎖状ポリオキシン化合物を大量に合成した。 次に、炭素19位に水酸基を持つタキソール類縁体の合成法として、我々の研究室で開発したヨウ化サマリウムを反応促進剤に用いる分子内アルドール反応によって8員環部の構築と水酸基の導入を同時に行うことを考えた。すなわち、α,β-エポキシケトン類から調製されるジサマリウムアルコキシエノラートのアルデヒド類に対する付加によりビスアルドール生成物が良好な収率で得られることを最近見い出しているので、この反応を分子内環化に利用すれば炭素19位に水酸基を有するタキソール類縁体のBおよびBC環部位が合成できるものと考えられる。まず、先の鎖状ポリオキシ化合物から導かれるα,β-エポキシケトアルデヒドにこの方法を適用したところ、目的の反応が円滑に進行し炭素19位に水酸基を有するタキソール類縁体のB環部が良好な収率で生成することが分かった。さらに、このB環部から導かれるエノンに対してγ-アルコキシビニル銅錯体のマイケル付加を利用してC環部位の導入を行い、続いて二重結合を形成した後にアリルアルコールの酸化を行い、環状のα,β-エポキシケトアルデヒドに導いた。再度ヨウ化サマリウムを用いる分子内ビスアルドール反応を行ったところここでも望みの反応が進行し、炭素19位に水酸基を有するタキソールのBC環部位を立体選択的に構築することができた。 今後、引き続きA環部の導入を行いタキソール類縁体の合成の完結を目指して検討を行う。
|