研究概要 |
筆者らにより合成法が確立された高度にフッ素化されたパーフルオロアルキル基を有するフルオラスキラルビナフトール((R)-FBINOL)から、既存の方法を用いて(R)-FBINOLのフェノール性水酸基をジフェニルホスフィニル基へ変換し、フルオラスBINAP((R)-FBINAP)の合成について検討を行った。その結果、ビストリフレート体を経由し、一旦(R)-FBINAPの酸化体であるジオキシドとし、これを還元することで目的とする(R)-FBINAPが比較的高い収率で得られることを明らかにした。しかしながら、この化合物は非常に酸素に鋭敏な化合物であり、容易にジオキシドへ酸化された。これは、酸素と親和性が高い高度にフッ素化されたフルオラス鎖を有するためと考えられる。 ここで得られた(R)-FBINAPの不斉配位子として特性を明らかにするため、(R)-BINAP-酢酸パラジウム触媒によるアリールトリフラートと2,3-ジヒドロフランの不斉Heck反応に(R)-FBINAPを用いて検討を行った。その結果、ベンゾトリフルオリドおよびベンゼン中での均一系の反応では反応速度がオリジナルの反応に比べ遅いものの、ほぼ同じ不斉収率で対応する生成物を与えることがわかった。この際、生成物とフルオラス化合物はフルオラス逆相系シリカゲルの短いカラムを通すことで容易に分離することができた。しかし、回収されたフルオラス化合物は(R)-FBINAPのジオキシドであった。ついで、ベンゼン/パーフルオロヘキサンの二相系で反応を行い、フルオラス相に含まれる触媒の再利用について検討を行ったところ、2回目の反応は全く反応が進行しなかった。このことは(R)-FBINAPが溶媒に残存する酸素もしくは反応中に進入した酸素によってジオキシドに酸化され触媒が失活したものと考えられる。以上のように高度にフッ素化されたフルオラス鎖を有するホスフィン系の不斉配位子は酸素に対して鋭敏であり、その回収・再利用には新たな方法論を導入する必要があることが示唆された。
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