研究概要 |
鉄(III)三核クラスター配位子(CL^-)は中心にμ_3-オキソにより架橋された鉄(III)三核クラスターコアを有し,鉄イオン間を架橋するアルコキソイオン,四つの塩化物イオン,そして配位可能なカルボニル酸素を提供する二つのbpca^-イオンよりなり,一価の負電荷を有する錯体である.CL^-は同じ方向を向いた四つの配位可能なカルボニルサイトを有し、金属イオン集積体の構築素子として極めて有効である。二つのクラスター配位子と二価の第一遷移金属イオンから成る七核錯体における磁気的挙動は極めて複雑であり,その詳細な解析を行うためには,bpca^-を介した磁気的相互作用を理解する必要が有る.本年は,様々な金属イオンの組み合わせについてbpca^-を介した磁気的相互作用の発現を系統的に調べ,相互作用の正負,っまり,金属イオン間に強磁性的相互作用ないし反強磁性的相互作用が発現するメカニズムについて考察を行い,金属イオンの磁気軌道の対称性により,大まかな説明がつくことを見いだした.つまり,bpca^-の特徴的な架橋様式(疑似二回対称を有するκ^2N:κ^3N型配位)に基づき,σスピン間には強磁性的相互作用が,σスピン-πスピン間には反強磁性的相互作用が発現する.具体的には,σスピンしか持たないCu(II)-Cu(II)間には7cm^<-1>程度の強磁性的相互作用が働くが,σスピンのみを持つNi(II)イオンとσスピン,πスピンの両方を持つhigh-spin Fe(II)イオン間には,強磁性的な相互作用が働くことが多いものの,Fe(II)周りの配位環境によっては,ごく弱い反強磁性的な相互作用が生じる.この系においてはNi(II)σスピンとFe(II)πスピン間には反強磁性的相互作用が,Ni(II)σスピンとFe(II)σスピン間には強磁性的相互作用が働き,この相反する相互作用の大小関係が各イオン周りの配位環境により影響を受け,その総和が錯体における磁気的相互作用として観測されたものと解釈が可能である.
|