研究概要 |
本研究ではテクネチウム原子への高い配位能をもつシステイン残基を含むペプチドについて,そのアミノ酸配列とそのテクネチウム錯体の構造の関係について研究した。その結果、リシル-チロシル-システインのアミノ酸配列をもつペプチドがテクネチウムに対して,優れたキレート能を有することを見いだした。まずこのペプチドをもつオキソテクネチウム錯体を合成した。ペプチドはテクネチウム-オキソコア(Tc=0)に対して、リシン残基のアミノ基の窒素原子、チロシン残基とシステイン残基のアミド基の窒素原子、さらにシステイン残基のチオール基の硫黄原子で配位していることが判明した。この錯体には複数の構造異性体が存在する可能性があるが,その生成反応においては単一の化合物のみが得られる。また,同じペプチドを用いてニトリドテクネチウム錯体を合成した。ニトリド-テクネチウムコア(Tc≡N)に対しては,ペプチド2分子がシステイン残基のアミド基の窒素原子およびチオール基の硫黄原子で配位する。このニトリドテクネチウム錯体にも異性体が存在するが,得られる化合物は単一である。また,ニトリド-テクネチウムコアに対してシステインメチルエステルを反応させたところ,やはり2分子のシステインメチルエステルが配位した錯体が生成した。この結果はオキソコアと比較してソフトなニトリドテクネチウムコアへはシステインが2分子配位したほうが,ソフトなチオール基が多く配位するために有利であることを示唆する。
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