積層型フタロシアニン(Pc)オリゴマーの合成には、共有結合もしくは配位結合を介して中心金属を連結する手法がとられる。しかし、一般に金属-置換基間の結合は非常に弱く、生成が確認されている物でも実用に耐え得るだけの十分な安定性を持たない。そこで屈曲した周辺置換基を介したPcの積層化法の開発に向けて検討を行った。 当初ビシクロ環の導入を検討したが、柔軟性に欠ける合成ルートであったため、屈曲部位として2位に側鎖を持つシクロヘキシリデンケタールを用いた構造に変更した。イミンを経由したシクロヘキサノンのα位のアルキル化は不斉合成を含めて膨大な研究例があり、広範な応用が期待できる。シクロヘキサン環がベンゼン環に対して垂直に固定され、2位に側鎖がエクアトリアル位となる椅子型コンホメーションをとる。この際、側鎖はPc環に対して60-90°の角度をとると期待できる。合成した化合物(無金属体)のNMRスペクトルにおいて側鎖末端部分の化学シフト値がPc環形成前に較べて高磁場側にシフトした事より、導入した側鎖が設計通りPc環の垂直方向へ配向している事を確認した。この結果を平成13年の日本化学会東北地方大会で報告した。 ここで得られたフタロニトリルを分子内に4個持つ分子は、分子内Pc環化反応に適した構造であると考えられる。そこで、カリックスアレン(CA)にアルキル鎖を介して4分子のフタロニトリルを結合させ、塩化銅により環化させたところ、CAとPcの複合体が得られた。以前、当研究室ではCAと4分子のフタロニトリルを単純なアルキル鎖で結合させたPc前駆体を用いてCA-PC複合体の合成を試みているが、分子間でPcを形成したポリマーが得られただけに終わっているからも、その有用性が示された。この複合体はテルビウムイオンに対する包接能を持つ事が発光寿命の測定より明かとなった。
|