強力常磁性磁石、水素吸蔵合金、高温超伝導体材料の構成一成分として、希土類元素はかなり広範に活用されるようになってきているにもかかわらず、その化合物の一部は試料のハンドリングの難しさなどから、未だに種々の物性値が必ずしも明確でない場合が多い。希土類ハロゲン化物の中でも特に塩化物を対象に、中性子散乱法、X線回折法、EXAFS法を用いて、さらに分子動力学計算によって溶融物の構造情報を整理したところ、La〜Gd(軽希土類)とYやDy以降(重希土類)とはイオン半径の若干の違いにも関わらず、結晶構造のみならず、融液においても構造の差異が見られることが解った。特にNdCl_3のEXAFS測定では融点より約100度下で相転移を示唆する、Nd-Clイオン間距離に相当するピーク位置のシフトが顕著に起こっており、室温における結晶構造はNdの周りにClが9配位、融体においては6〜7配位とされているので、高温時の固相では8配位構造としてのPuBr_3構造の発現ではないかと推論した。しかしながら、高温EXAFSの解析には非調和振動の効果を取り入れなければならず、現在さらなる解析を行っている。 一方、試料そのものに含まれている微量の水分が熱力学値に影響を及ぼしかねないと考え、示差走査熱分析を開始する前に、カールフィッシャー法で試薬の水分量を定量した。脱水溶媒への溶解も、水分測定自体もアルゴン雰囲気下で行ったところ、非常に再現生のよいデータが得られ、水分含有量は試薬の形状の差(顆粒状(60〜80ppm)または粉末(300ppm))に依存することが解った。だが市販で一番質の良い試薬(4N)でも100ppm程度の水分は含まれていることがわかり、これが熱物性に有意な差をおよぼすのかどうか、示差走査熱分析を行っていく予定である。
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