不対電子を持つ金属錯体が一次元に並んだ高分子錯体では、導電性や強磁性などの特徴ある物性を示すものがあり、今日、その構造と物性について盛んに研究が行われている。例えば、一次元鎖状構造(…V=O…V=O…)をとるオキソバナジウム(IV)錯体[VO(salpn)]では鎖中の分子間に強磁性的相互作用(J=+5.2cm^<-1>)が見られる。今回、報告者は新たに…Cr≡N…Cr≡N…の一次元鎖状構造をとるニトリドクロム(V)錯体[CrN(salpn)]の合成を行った。この錯体のN…Cr距離(2.508Å)は一次元鎖状構造をとる[VO(salpn)]のO…V距離(2.213(9)Å)にくらべて長く、Cr≡Nユニット間の相互作用は弱いことがわかった。しかし、[CrN(salpn)]では、鎖中の分子間に強磁性的相互作用(J=+8.4cm^<-1>)が見られ、その相互作用は同じ(d_<xy>)^1の電子配置を持つ[VO(salpn)](J=+5.2cm^<-1>)に比べて大きいことが明らかになった。現在、これらの錯体について電子密度とスピン密度の計算を行い、強磁性的相互作用が発現する機構について考察を行っている。 一方、報告者は…Ti=O…Ti=O…の一次元鎖状構造をとるオキソチタン(IV)錯体[TiO(salen)]の合成に初めて成功した。この錯体のTi=O距離(1.705(2)Å)は[VO(salpn)]のV=O距離(1.633(9)Å)にくらべて長く、O…Ti距離(2.118(2)Å)は[VO(salpn)]のO…V距離にくらべて短い。すなわち、[TiO(salen)]ではTi=O二重結合の二重結合性が減少していることが明らかになった。[TiO(salen)]はd^Oの電子配置を持つが、現在、この錯体をNOで還元し、新たな物性を生み出すことを試みている。
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