研究概要 |
近年、ランタノイドイオンを含む金属錯体は磁性体や発光材料、触媒などへの応用目的からさかんに研究が行われている。しかし、それらの錯体の多くは単核、もしくはランタノイドイオンのみが配位子で架橋された多核構造をとるものが大半を占めている。そこで、報告者は新たにランタノイドイオンと他の遷移金属イオンを含むヘテロ多核金属錯体を合成することを試みた。すなわち、酸化還元やスピンクロスオーバー、光化学反応を起こす遷移金属イオンをランタノイドイオンに近接させたヘテロ多核金属錯体を構築し、金属間の協同的な相互作用から新たな機能や物性、反応性を持つ新しい物質をつくることを目的とした。その結果、一次元鎖状構造をとる多核金属錯体は合成できなかったが、5座のシッフ塩基配位子を用いてV-Ln-Ln-Vの骨格を持つV(V)-Ln(III)4核錯体(Ln=Eu, Gd, Tb)とV-Ce-Vの骨格を持つV(V)-Ce(IV)3核錯体の合成と構造決定に成功した。その中で、V(V)-Tb(III)4核錯体は従来のTb(III)錯体より、強い強度の蛍光スペクトルを示すことが明らかになった。また、V(V)-Ce(IV)の3核錯体の電気化学的性質についてCVで調べたところ、この3核錯体は-0.06V付近(vs.Ag/Ag^+)に2電子の可逆な酸化還元波を示すことがわかった。この錯体のようなヘテロ多核金属錯体では、ランタノイドイオンと遷移金属イオンの組み合わせを変えれば数多くの錯体の合成が可能であり、それぞれの中心金属の特性に応じてさまざまな化学が展開すると期待される。
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