14年度は、13年度に明らかとした、本素結合型の電荷移動錯体における、光照射下の、電荷移動と連動したプロトン移動とスピン生成に関して、その機構を裏付ける新たな実験事実を得ると共に、同様の水素結合系を有する新しい錯体系の合成を行った。 1)重水素化による反応機構の解明 13年度に明らかにした、ヒドロキノンとピリジルピリジニウム塩のダイマーの錯体における分子構造変化をより詳細に検討する目的で、ヒドロキノンの水素を重水素化した錯体について、同様の計測を行った。その結果、得られたIRスペクトルは、密度汎関数法により予測された中間体のスペクトルと良い一致を示し、この反応の反応機構に対する証明となった。 2)磁気測定によるラジカル種の直接検出 本系の特徴として、光誘起により、プロトンと電子の連動が起こり、結果としてスピン生成が起こる。このスピン種のスピン多重度を、SQUID磁束計を用いて検討したものの、多重項であることの証明は得られなかった。分子間の電荷移動による反強磁性的相互作用が存在することと、単位体積あたりのスピン生成の割合が少なく、精度が低いという問題があり、更なる検討を必要とする。ESRにおいては、g=4に多重項種の存在を示唆する禁制遷移が観られたものの、多重項種の存在を証明する微細構造は観測されなかった。 3)新規の錯体の合成 数種類のドナーとアクセプターの組み合わせにおいて、様々な条件下で錯体調製を検討した結果、本系の特徴を備えた水素結合型電荷移動錯体として、新たに2種類の錯体を見出すことが出来た。
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