最近ヘテロ環構造を有するSNラジカルが金属的伝導や弱強磁性など多彩な物性を示すことから注目を集めている。我々は磁化率に大きな温度履歴を有するTTTAが見つかったのを期にこれらの物質群の常磁性-反磁性転移に着目している。本研究では我々はTTTAと分子構造がよく似た、BDTAラジカルの反磁性-常磁性相転移挙動に着目した。BDTAは結晶状態ではHT配向で強く二量化しており、BEDT-TTF塩のKappa相のような配列で二次元のネットワークを形成している。この物質の磁気的性質は強く二量化しているため、低温では反磁性的となっているが、360K付近で常磁性を示す液相となることが報告されている。そこでこの常磁性液相の温度履歴について熱的性質と磁気的性質の両面から詳細な検討を行った。 調製直後のBDTA結晶を365Kに保ち、磁化率が最大値になったところで降温すると、低温相へは戻らず、常磁性を示す相は、低温まで安定に存在することが判った。室温でこのサンプルを取り出すと固化していたことから、常磁性の由来は液相ではなく別の高温相へ転移したためと考えられる。この常磁性高温相の磁性は100Kまではキュリーワイス的な挙動を、ワイス温度が-90K程度の反強磁性的相互作用を有する。熱容量測定の結果、11K以下で反強磁性体に相転移することが明らかとなった。 この常磁性高温相について数回の昇降温を繰り返したところ、270Kで常磁性→反磁性転移、346Kで反磁性→磁性転移を示した。また降温過程ではこの常磁性相は320Kで反磁性相へ転移することが明らかとなった。これらの複雑な磁気挙動には反磁性低温相、常磁性高温相の2つの固相と液相、さらには過冷却ならびに過熱現象が関与しており、系のG-T曲線を用いて容易に説明できることを明らかにした。
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