コランニュレン(1)は5回対称軸を持つ非交互炭化水素化合物で、bow1型の構造を有しており、C_<60>のちょうど1/3の骨格に相当する。1の最低空軌道と最高被占軌道のいずれも2重に縮退していること、さらにLUMOのエネルギー準位が比較的低いことから4電子還元まで可能でありTHF溶媒中、金属Liによって1は還元を受け、1価から4価までの各アニオン状態をとることがScottらによって報告されている。1のモノアニオン状態では、電子状態が縮退していることからJahn-Teller(JT)の定理によりJT変形を起こすことが期待され、分子軌道計算から、JT効果によってコランニュレンの対称性がC_<5V>、からC_sに低下することがわかっている。さらに電子スピン共鳴スペクトルからJT効果を観測し、スペクトルの温度依存からC_s安定構造間のポテンシャル障壁ΔEが2.2meVと見積もられている。一方、コロネン(2)は6回対称軸を持った交互炭化水素化合物で平面構造をとっている。また、LUMOが2重に縮退していることより、コランニュレンと同様にモノアニオンでJT変形を起こすことが期待される。JT効果を観測するため、1をNaで還元した1^-と、2をNa及びLiで還元した2^-の溶液ESRスペクトルを種々の温度で測定を行った。また2についてはab initio分子軌道計算によりその構造、電子状態および振動状態を検討し、さらに射影演算子の方法により、断熱ポテンシャル曲面を導出し、これらについて1におけるJT効果との比較を行った。1^-は室温付近で超微細結合定数a_H=0.156mTとなる分子周縁の10個の等価な水素原子に由来する11本の超微細構造が観測され、測定温度を低下させていくのに伴い、さらに微細なシグナルが観測された。一方2^-は室温付近で、a_H=0.148mTとなる分子周縁の12個の等価な水素原子に由来する13本の超微細構造が観測された。しかし、測定温度を低下させたにもかかわらず、1-のような微細なシグナルが観測されなかった。
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