本研究は、研究代表者が見出した新有機超伝導体、(MDT-TSF)-AuI_2塩(MDT-TSF:メチレンジチオテトラセレナフルバレン)に関する知見がシーズとなっているが、本年度において、この物質が有機超伝導体としては異常な不整合格子を持つことを突き止めた。さらに、MDT-TSFをドナーとして用いた電気化学的結晶化により、新たに4種の超伝導体を見出し、その結果、この系における超伝導臨界温度(Tc)は約6Kまで向上した。 一方、新規ドナー開発においては、MDT-TSFのすべてのカルコゲン原子をセレンで置き換えたMDSe-TSF(メチレンジセレノテトラセレナフルバレン)、MDT-TSFの構造異性体である二種類のMDSe-STF(メチレンジセレノジセレナジチアフルバレン)、MDT-TSFの一部のセレン原子を硫黄で置換したMDT-STF(メチレンジチオジセレナジチアフルバレン)の4種の新規化合物の合成に成功すると共に、それらの誘導体の一般的合成法に関する研究にも着手した。加えて、BEDT-TTF(ビス(エチレンジチオ)テトラチアフルバレン)骨格への選択的セレン原子導入法も確立した。 さらに、上記のMDT-TSF系新規ドナーの電荷移動型ラジカルカチオン塩の研究により、MDT-STFのI_3塩を含む3種の塩がTc4K程度の超伝導体となることを見出した。これらに加えて、(MDSe-TSF)_2Br塩、及びMDSe-STF-I_3塩でも超伝導転移を示唆する実験結果を得ており、現在、引き続き詳細な実験を行っている。 以上のように、今年度の本研究において、(1)効率的な含セレン電子供与体合成法の確立、及び (2)新たに7種の新規有機超伝導体を発見、という成果を得た。
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