光誘起スピン転移LIESST錯体は、光スイッチング分子デバイスとしての応用が可能である。現在まで鉄(II)錯体のみ開発されてきたが、それ以外の錯体では一つも見出されていない。鉄(II)化合物以外(鉄(III)あるいはコバルト(II)化合物など)は、ポテンシャルダイアグラムを考慮した場合、活性化エネルギーや結合距離の問題から、準安定高スピン状態に励起されてもトンネル効果のためすぐにもとの状態に戻ってしまい不可能とされてきた。この不可能とされてきた金属イオンを含む化合物を用いた光スイッチング分子の開発を目的として研究を行った。その戦略として、分子間相互作用を利用することにより、双安定状態ポテンシャルにおける活性化エネルギーを変化させ、光励起準安定状態を保持できると考えた。実際に分子間相互作用を導入したスピンクロスオーバー鉄(III)化合物は、低温で光照射により磁化が増大する現象が観測された。これはLIESST現象が観測できないと考えられていた鉄(III)錯体ではじめて、LIESST現象が観測できたことを示している。さらに開発した光スイッチング機能を一つの材料として組み込み、光スイッチングによる機能性を出現させることを目指した。新規光スイッチング材料の開発を行い、光スイッチング材料をビルディングブロックとして組み込んだ光応答性分子磁石の構築を行った。その結果、シアノ架橋された鉄マンガン系の一次元化合物の構築に成功した。この化合物は約100Kでスピン転移するスピン転移化合物であり、さらに低温で光照射すると鉄サイトが低スピン状態から高スピン状態へとスピン転移する光スイッチングを組み込んだ磁性体の構築に成功した初めての例である。さらにコバルト(II)錯体において新規スピンクロスオーバー化合物を構築し、それらはそれ自身が他金属イオンと配位できる錯体配位子であり、他金属イオンとの集積化により超分子化合物の構築に成功した。このスピン転移化合物を組み込んだ超分子化合物の構築は、現在進行中であるが、超分子化合物の温度や光による外場応答は新しい試みであり、新規物性の出現が期待できる。
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