研究概要 |
光誘起スピン転移(LIESST)化合物は、光スイッチング分子の一つとして知られている。このLIESST現象は鉄(II)化合物において観測されているが、鉄(III)あるいはコバルト(II)スピン転移錯体では、金属配位子間の結合距離やエネルギー障壁の差が小さいことから、LIESST現象を観測することは不可能とされてきた。この研究において強い分子間相互作用(π-πスタッキング)を導入することで、光スイッチングを実現させることを目指し実験を行った。鉄(III)錯体[Fe(pap)_2]ClO_4(Hpap=2-(2-Pyridylmethyleneamino)phenolは、温度に依存し低スピン状態Fe^<III>(t_<2g>^5e_g^0:S=1/2)【tautomer】高スピン状態Fe^<III>(t_<2g>^3e_g^2:S=5/2)間で熱的ヒステリシスを伴い急激なスピン転移挙動を示す。構造解析の結果からも、分子間で配位子がπ-πスタッキングを形成することが確かめられた。この鉄(III)錯体は、LMCTバンドに対応する550nmの光を5Kで照射すると、低スピン状態から準安定高スピン状態へとスピン転移し、現在まで不可能とされてきた鉄(III)錯体で初めて光誘起準安定高スピン状態を80Kまで安定にトラップすることに成功した。 また原子価異性(Valence tautomerism)を用いた光スイッチング分子の構築を目指し実験を行った。コバルト錯体[CO^<II>(SQ)_2(phen)](SQ=3,5-Di-tert-butylsemiquinon, phen=1,10-phenanthroline)の原子価異性は、高スピン状態CO^<II>(t_<2g>^5e_g^2:S=3/2)【tautomer】低スピン状態CO^<III>(t_<2g>^6e_g^0:S=0)間を配位子SQのラジカルが移動することにより熱的に転移し[CO^<III>(SQ)(Cat)(phen)](Cat=3,5-Di-tert-butylcatechol)となる現象である。5Kで低スピン状態[CO^<III>(SQ)(Cat)(phen)]に550nmの光を照射すると、高スピン状態[Co^<II>(SQ)_2(phen)]を長時間トラップすることができ、新たな光スイッチング分子の開発に成功した。
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