研究概要 |
超高圧下における純有機ラジカル強磁性体の新奇物性探索を本研究の目的として、ピストンシリンダー型クランプセルやダイアモンドアンビルセルを使用し、10GPaまでの圧力領域で典型的有機ラジカル強磁性体2,5-DFPNNの強磁性転移温度(Tc)と磁気モーメントの圧力効果を追跡する実験を行った。 これまでの代表的有機ラジカル強磁性体の加圧効果の研究としては、β相p-NPNN(Tc(P=0)=0.61K)とCl-C6H4CH=N-TEMPO(Tc(P=0)=0.28K)において1GPa程度までの圧力領域で高圧下磁気・熱測定がおこなられており、0.7GPa付近の圧力下で圧力誘起強磁性-反強磁性転移が観測されている。しかし、本研究の2,5-DFPNN(Tc(P=0)=0.45K)においては4GPaの圧力下まで強磁性的なシグナルは観測され、転移温度も常圧のTcの約二倍の0.8K付近にまで上昇した。この圧力誘起による強磁性転移温度の上昇は純有機ラジカル強磁性体においては初めての現象であり、転移温度が著しく低いことがマイナス要因となっていた純有機ラジカル強磁性体の可能性・将来性にとって好材料の発見と言える。 しかし、磁気モーメント自体の大きさに注目するとそれは加圧によって徐々に減少する傾向にあり、やはり超高圧下においては強磁性は安定状態となり得ないという結果が得られた。 これらの転移温度と磁気モーメントの圧力効果を説明するために放射光を利用した高圧下構造解析を行った。結晶構造の変化は観測されず、4GPaの加圧下で10%程度の体積収縮があることが観測された。磁気モーメントの消失を裏付けるためには今後、高磁場下での磁気測定や比熱測定を行う必要があり、そのために技術開発を行いつつあるというのが現状である。 また、研究代表者はこの結果は単に強磁性が不安定になったという現象ではなく、SOMOの分子軌道の重なりが大きくなることによる局在モーメントの減少、つまり伝導性の出現につながるものと考えており、今後、金属下を期待した電気伝導性に関する実験も行うことを計画している。
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