本研究は光学活性リン酸エステルの実用的な立体選択的合成法の確立を目的とする。 リン酸エステルはDNA/RNAに代表される微量生体物質の重要な構成単位であり、脂質や糖、タンパク質などと結合したリン酸モノエステルとして存在する。通常これらはリン原子上に不正中心をもたないが、医農薬として利用される人工的に合成されるリン酸トリエステルやチオリン酸ジエステルの中にはリン原子上に不斉中心をもち、その光学異性体間で生物活性は大きく異なるものが数多く存在する。研究者は立体選択的なリン酸エステル合成法の開拓を計画した。三価のリン化合物とアルコールの縮合におけるラセミ化に着目し、この縮合反応において塩基触媒として広く利用されているアゾール類に不斉アルキル置換基を導入すれば縮合は立体選択的に進行すると考えた。不斉触媒のモデルとして既存のアゾール触媒の活性部位近傍に単純な構造の不斉置換基を導入したいくつかの触媒を合成し立体選択性を調査したところ10-20%ee程度の選択性が発現した。研究者はまず、触媒活性の触媒活性の獲得に注力した。種々の検討の結果1-フェニルイミダゾールとトリフルオロメタンスルホン酸の複合体が三価のリン化合物であるホスホロアミダイトジエステルとアルコールの縮合反応において高い触媒活性をもつことがわかり、これまで純度よく合成することが困難であったオリゴリボヌクレオチドが固相法により合成できた。また、その過程で高い能力をもつ酸化剤ブタノンペルオキシドやモレキュラーシーブスを利用するリン酸エステル合成に関する改良法も提示できた。高い触媒活性をもついくつかのアゾールについて不斉アルキル置換基を導入して予備的実験としてある種のクロロ亜リン酸ジエステルとアルコールの縮合反応をおこない、立体選択性を調査したところ変換率は低いものの50%eeを越える選択性が確認された。来年度はこれを足がかりに触媒の再設計をおこない、実用的な光学活性リン酸エステルの立体選択的合成法を完成させる。
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